新基準解説シリーズ【税効果会計 Part.1】

1.はじめに
2.繰延税金資産の回収可能性に係る基本的な考え方
3.改訂予定の基準の概要
(1)従前の取扱いと新基準の異同
(2)用語の定義
(3)企業の分類に応じた取扱い


◆1.はじめに◆

税効果会計の“キモ”とも呼べるであろう、繰延税金資産の回収可能性の基準が改正されようとしています。ことの発端は、従来の「監査委員会報告第66号 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」や「会計制度委員会報告第10号 個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」など税効果会計に関するルールが公認会計士協会によって作成されており、とりわけ監査委員会報告第66号においては、あくまでも監査人が監査をする上で指針となるものであるにも関わらず、実務上は会計基準と同様に運用されていることに対して疑問が呈されたことによります。

そのため、現在会計基準の作成を担っているASBJに当該監査上の取扱いが移管されることになりました。この移管に伴い、当該監査上の取扱いのうちで、疑問点や批判があった事項について、改めて見直しを行うこととして、今般改正がなされようとしています。今回は、まず回収可能性についての基本的な考え方を改めて整理した上で、改正がなされようとしている基準の変更点を中心に解説を行います

時間のない方やマネジメント層の方で大枠のみを知りたいという方は、本稿の「3(1)従前の取扱いと新基準の異同」を読んで頂けますと、改正の概要と留意点についてご理解頂けるかと思います。

なお、新基準の適用時期等については以下の通りとなります。
① 平成28年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。
ただし、平成28年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から早期適用できる。この場合、年度の期首に遡って適用する。
② 適用初年度は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。
③ 過去の期間の財務諸表に遡及適用を認めない。
④ 適用初年度の期首の影響額を利益剰余金等に加減する。

※「適用初年度の期首の影響額を利益剰余金等に加減する」という点については、基準を開発するASBJや会計士・監査法人による見解と経済界による見解に相違があるように思えます。前者の方は改正案に賛成していますが、後者は反対しているようです。今後の議論の推移に留意が必要な項目と言えるでしょう。


◆2.繰延税金資産の回収可能性に係る基本的な考え方◆

繰延税金資産の回収可能性については、現行実務上では、上述の通り、「監査委員会報告第66号 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」や「会計制度委員会報告第10号 個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」に従って判断されることになります。

回収可能性の基本的な考え方は個別財務諸表の実務指針第6項において、以下のように記載されています。

繰延税金資産の回収可能性の判断(第6項)
将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、次の(1)から(3)に基づいて、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを判断する。

(1)収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得
① 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性:
その解消見込年度及び繰戻・繰越期間に、一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかどうか
② 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性:
その繰越期間に一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかどうか
上記は、過去の業績や納税状況、将来の業績予測等を総合的に勘案し、将来の一時差異等加減前課税所得を合理的に見積る必要がある。

(2)タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得

(3)将来加算一時差異

新基準では、上記のような回収可能性に関する基本的な考え方、及び回収可能性の水準に関する基本的な考え方を踏襲しています。そのため、新基準が適用されることにより、現行の実務が大きく変更される可能性は小さいと思われます。


◆3.改訂予定の基準の概要◆

(1)従前の取扱いと新基準の異同
従来の監査上の取扱いと改正予定の新基準の異同のポイントは以下の通りです。

<異同のポイント>
● 企業を5つの区分に分類し、当該分類に応じて繰延税金資産の計上額を見積る枠組みは基本的に踏襲する。

● ただし、企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱いの一部については必要な見直しを行う。
① 各分類の要件を一部見直す。
② 各分類で計上される繰延税金資産の額を一部見直す。

●上記の見直しに伴い、用語の定義を見直した。

● 解消見込み年度が長期にわたる将来減算一時差異などは、従来の実務指針の内容を基本的に踏襲している。

<改正予定の基準全体を通じてのポイント>
● 一部の見解では、改正される基準ではいままでの基準と比較して、回収可能性の判断が緩和され、繰延税金資産の計上額が増えるのではないかという議論がありますが、必ずしもそうではないということも理解しておくことが重要。

(2)用語の定義
新基準では第3項に基準内で使用される用語についての定義が記載されています。とりわけ、「課税所得」については、従来の基準では、二重の意味で使用されていると思われてしまいがちであったために、新基準では、課税所得を以下のように二つに分類し、定義付けしています。なお、定義の変更によって、実務上の対応が大きく異なることは想定されていないようです。

● 課税所得:
法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額が損金の額を超える場合におけるその超える部分

● 一時差異等加減算前課税所得:
将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額(及び該当する場合は、当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額)を除いた額

上記の「課税所得」については、法人税の申告書上で計算される課税所得であると考えて概ね問題ないでしょう。一方で、一時差異等加減算前課税所得については少し説明を要するかもしれません。このような新しい言葉の定義が出てきたのは、同じ「課税所得」という文言でも、使われている文脈によって、概念が異なっているのではないか、という指摘に対応することにあります。要は、単純に税務申告書上の「課税所得」と同じものなのか、それとも、スケジューリングを行う際に必要となる将来の「課税所得」なのかの違いです。後者については、期末における将来減算一時差異が将来のどの時点で、解消されることになるのか、換言すれば、いつ税務上損金算入されることになるのか、を判断するために必要な「課税所得」ということになります。つまり、この意味での「課税所得」は税務申告書上における「課税所得」とは一致しないことになります。ある一時差異が税務上減算することができるかどうかを判断する際には、その一時差異を考慮する前の課税所得が、必要となるからです。その意味で、後者の「課税所得」を一時差異等加減算前課税所得としたものと思われます。

(3)企業の分類に応じた取扱い
新基準においても、現行の監査委員会報告第66号における取扱い、すなわち現行実務に浸透している考え方を基本的には踏襲することになります。そのため、<分類1>から<分類5>に係る分類の要件に基づいて企業を分類するとともに、その分類に応じて繰延税金資産の計上額を決定するという考え方に変更はないということになります。もっとも、いままでは、あくまでも「監査上の取扱い」であり、監査人が監査を行う上での目線を示したものであるという観点から記載されていましたが、今般の改正により、会計基準となることから、各企業の分類についての要件を明瞭とすることになっています。

なお、繰り返しになりますが、いままでの基準は、監査上の目安という位置付けですので、各分類に正確に該当しないような企業が存在した場合は、実務上合理的に対処していたと思われます。しかし、会計基準へと変更されることに伴い、各分類の要件をいずれも満たさない企業が存在した場合は、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類するということが明記されました。もっとも、この点についても現行の実務では、概ね同様の取扱いがなされているものと思われますので、大きな変更であるとは言えないでしょう。

今回はここまでです。
次回は具体的に分類の要件の見直しを説明していきます。

(Part.2)
 (4)分類2及び分類3に係る分類の要件の見直し
 (5)<分類2>におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異
 (6)<分類3>の合理的な見積可能期間に関する取扱い
(Part.3)
 (7)<分類4>に係る分類の要件
 (8)従来の<分類4但し書き>の変更
 (9)従来の課税所得の見積り
 (10)従来の実務指針から踏襲しているその他の事項
 4.おわりに

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