新基準解説シリーズ【税効果会計 Part.2】

~前回~
1.はじめに
2.繰延税金資産の回収可能性に係る基本的な考え方
3.改訂予定の基準の概要
(1)従前の取扱いと新基準の異同
(2)用語の定義
(3)企業の分類に応じた取扱い

~Part.2~
(4)分類2及び分類3に係る分類の要件の見直し
(5)<分類2>におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異
(6)<分類3>の合理的な見積可能期間に関する取扱い

前回は、繰延税金資産の回収可能性の基本的な考え方、本基準の概要を中心に解説いたしました。今回は、具体的に分類2及び分類3を解説してまいります。


◆(4)分類2及び分類3に係る分類の要件の見直し◆

分類1及び分類5については、従前の取扱いとほぼ変わりはありません。ここでは、若干の変更がある分類2及び分類3について説明していきます。
分類2の企業の要件は次の通りです。

【監査委員会報告第66号】
過去の業績が安定している会社等の場合、すなわち、当期及び過去(おおむね3年以上)連続してある程度の経常的な利益を計上しているような会社

【変更後基準(第19項)】
次の要件をいずれも満たす企業
(1) 過去(3 年)及び当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。
(2) 当期末において、経営環境に著しい変化がない。
(3) 過去(3 年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。

<分類2>に係る分類の要件として示している「臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が安定的に生じている」の趣旨(69項)は、将来において一時差異等加減前課税所得を安定的に獲得する収益力があるか否かを判断することを意図していることにあるとされています。

要すれば、臨時的な原因により生じた課税所得は、将来を予測するに資するものではない一方で、毎期経常的に課税所得を発生させる原因は、将来を予測するに資するものであると基準は考えているものと思われます。この点は、我々の直感に適うものではないでしょうか。「“たまたま”儲かった」企業と、「“常に”儲かっている」企業とでは、後者の方が、今後も継続的に儲かりそうだなと思うのは自然なことと思います。

また、<分類3>に係る分類の要件も見てみましょう。

【監査委員会報告第66号】
過去の業績が不安定な会社等の場合、すなわち、過去の経常的な損益が大きく増減しているような会社

【変更後基準(第22項)】
次の要件をいずれも満たす企業(第 26 項(2)又は(3)の要件を満たす場合を除く)
(1) 過去(3 年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している。
(2) 過去(3 年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。

<分類3>についても、<分類2>に係る分類の要件と同様に、「臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得」を要件としている点は重要でしょう。以下で、基準の70項に記載されている事項を抜粋するとともに、内容についてコメント及び解説をしたいと思います。

<課税所得から「臨時的な原因により生じたもの」を除くことについて>
●過去において臨時的な原因により生じた益金及び損金は、将来においても頻繁に生じることは見込まれないという推定に基づき、臨時的な原因により生じたものを除いている。
→ この点は、上述した、なぜ「臨時的な原因により生じたもの」を除くのかについての理由となります。違和感はないものと思います。

●営業損益項目に係る益金及び損金は、原則として「臨時的な原因により生じたもの」に該当しないと考えられる。
→損益計算書における営業損益区分に計上されるものは、「臨時的な原因により生じたもの」には該当しないと考えられる旨の記載です。この点も趣旨からして違和感はないと思います。

●営業外損益項目に係る益金及び損金は毎期生じるものが多く、通常は「臨時的な原因により生じたもの」に該当しないと考えられるが、項目の性質によっては「臨時的な原因により生じたもの」に該当するものが含まれることがあると考えられる。
→他方で、損益計算書における営業外損益の区分に計上される項目については、多くは毎期経常的に発生すると考えられるが、一部はそうではない場合も想定されるとしています。これは、現在の会計実務においては、特別損益項目として計上されるためには、「臨時かつ巨額」であることが求められていることが要因と考えられます。つまり、“臨時”ではあるけれども、“巨額”とは言えない取引は、原則として営業外損益項目として計上されることとなる可能性がある点に留意を促しているものと捉えることが可能でしょう。

●特別損益項目に係る益金及び損金であっても必ずしも「臨時的な原因により生じたもの」に該当するとは限らず、企業が置かれた状況や項目の性質などを勘案し、将来において頻繁に生じることが見込まれるかどうかを個々に項目ごとに判断することになると考えられる。
→特別損益項目に計上されている項目で、経常性がある項目なんてあるのだろうかと一瞬戸惑ってしまうかもしれません。しかし、例えば、飲食業などの多店舗展開を行っている企業などで、いわゆる「スクラップアンドビルド」なんて呼ばれるようなビジネスの場合は、毎期のように「減損損失」が計上されることがあります。このような場合は、特別損益項目に計上されていたとしても、税効果会計の企業分類の判定上は、経常的なものとして判断される可能性があるものと考えます。

◆(5)<分類2>におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異◆

現行の基準では、分類2の会社では、スケジューリング不能な一時差異については繰延税金資産を計上することはできません(又は、繰延税金資産を計上した上で、全額評価性引当としていると考えて頂いても問題ありません)。

しかし、一律にすべてのスケジューリング不能な一時差異について繰延税金資産を計上しないとする取扱いが企業の実態を適切に財務諸表に反映していることになるのかどうか疑問があるとする意見やIFRS・米国会計基準を適用している会社は、連結財務諸表においては、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産を計上している実務が見られるとの意見もあることから、見直しを行っているようです。以下では、新旧比較をするとともに、新基準で明記されている具体例について解説を加えていきたいと思います。

【監査委員会報告第66号】
スケジューリングの結果に基づき、繰延税金資産を計上している場合には回収可能性があると判断できる

【変更後基準(第20項及び第21項)】
スケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合は、回収可能性があるものとする。
原則として、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能性がないものとする。ただし、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異について、回収可能性があるものとする。

上記を見て頂けるとわかりますが、いままでの基準では、スケジューリングが不能な一時差異については、回収可能性はないものとしていました。例外はありません。

しかし、新たな基準においては、原則として回収可能性がないこととした上で、「税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合」という条件付きではあるものの、スケジューリングが不能な一時差異についても回収可能性が認められる余地が出てきました。この例外のケースについて、新しい基準が想定している事例は以下の通りです。基準に記載されている条件等にコメント・解説をします。

<具体例>

①いわゆる政策保有株式のうち上場株式の減損に係る将来減算一時差異
当期末において、市場環境、保有目的、処分方針等を勘案すると将来のいずれかの時点で売却する可能性が高いと見込む場合、<分類2>に該当する企業においては長期的には安定して一時差異等加減前課税所得が生じることが見込まれるため、スケジューリングが可能となった場合、相殺できる課税所得が生じる可能性があれば、一定の回収可能性を認め得ると考えられる。

→もう少し砕けた言い方にするならば、「<分類2>に該当されるような企業であれば、おそらく将来的にも潰れない可能性が高いし、そうであれば、政策的に保有した株式だって、いつかは売却することになるよね、しかも、<分類2>に該当されるなら将来にわたっても、課税所得が発生する可能性が高いのだから、回収可能性あるよね」という感じになるでしょうか。

もっとも、「市場環境、保有目的、処分方針等を勘案すると将来のいずれかの時点で売却する可能性が高いと見込む場合」をどのように解釈すべきかについては議論の余地があるものと思われます。つまり、どのような条件を満たせば、この要件を満たすことができるのかどうかについては、明確になっていないので、それぞれの企業が自ら考える必要があるとともに、監査人を説得できるだけの十分な根拠を示せるかどうかがポイントになるだろうと思います。また、基準の文言としては存在するけれども、実際の会計実務の中ではほとんど認められない、稀なケースにしか適用されないとするような運用となる可能性もありそうな気がします。

現時点では、どちらかと言えば、税効果会計に関する会計基準が改正になり、内容は大きくは変わらないらしいが、回収可能性に関しては少しいままでより認められやすくなるらしい、というような楽観的な考えが一部にあるようにも思います。しかし、必ずしもそうとはならない可能性があることは、念頭に置いておく必要があります。いずれにせよ、下の役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異でも同じですが、今後の会計実務の中での対応に注視する必要はあるでしょう。

②役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異
税務上の損金算入時期を個別に特定できない場合であっても、いずれかの時点では損金算入されるものであることから、<分類2>に該当する企業において将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

→上述した通り、ポイントとなるのは、「将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合」というのが、どのような状況や事実を指すのか、です。上記の株式の減損と同様、ここでも、将来的にどのような運用がなされるようになるのか、注視が必要となるでしょう。


◆(6)<分類3>の合理的な見積可能期間に関する取扱い◆

この変更は、現行実務において5年超える期間における課税所得の見積りがなされていないのではないかという指摘があったことに起因します。まずは以下を見て下さい。

【監査委員会報告第66号】
おおむね5年内の課税所得の見積額を限度として、繰延税金資産は回収可能性があると判断している。

【変更後基準(第23項及び第24項)】
将来の合理的な見積可能期間(おおむね 5 年)以内のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、回収可能性があるものとする。
上記にかかわらず、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3 年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5 年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合、回収可能性があると認める。

改正予定の基準の77項から79項をみると、現行実務では、5年を超える期間における課税所得の見積りがなされることはない一方で、これは、中長期計画は一般的に3年から5年のスパンで開示されることからして、5年超の期間の見積りはその精度が低くなることに対応したものであるとも考えられるから、基本的には現行の基準を変更する必要はない。しかし、一律に5年とすると、企業の実態を適切に反映しない可能性があるため、「臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合」という限定付きではありますが、認める余地を残すこととしています。

もっとも、この点についても、上述した政策保有株式のうち上場株式の減損に係る将来減算一時差異や役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異と同様、どのような状況や条件、事実があれば、「合理的に説明できる場合」に該当することとなるのかは現時点で明確ではありません。また、楽観的に5年超の期間の課税所得の見積りも範囲に含めることは、言うまでもありませんが、基準が想定していることではないでしょう。この点についても、今後の会計実務の推移に注視する必要がありそうです。

また、基準では具体例として以下の二つを挙げています。
●製品の特性により需要の変動が長期にわたり予測できる場合
●過去においては課税所得が大きく増減していたが、長期契約が新たに締結されたことにより、長期的かつ安定的な収益が計上されることが明確になる場合


今回はここまでです。
次回は税効果会計の最終回となります。具体的に分類4、分類4但書、従来の実務指針を踏襲する事項等を解説してまいります。


(Part.3)
 (7)<分類4>に係る分類の要件
 (8)従来の<分類4但し書き>の変更
 (9)従来の課税所得の見積り
 (10)従来の実務指針から踏襲しているその他の事項
 4.おわりに

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