新基準解説シリーズ【税効果会計 Part.3】

~前々回~
1.はじめに
2.繰延税金資産の回収可能性に係る基本的な考え方
3.改訂予定の基準の概要
(1)従前の取扱いと新基準の異同
(2)用語の定義
(3)企業の分類に応じた取扱い

~前回~
(4)分類2及び分類3に係る分類の要件の見直し
(5)<分類2>におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異
(6)<分類3>の合理的な見積可能期間に関する取扱い

~Part.3~
(7)<分類4>に係る分類の要件
(8)従来の<分類4但し書き>の変更
(9)従来の課税所得の見積り
(10)従来の実務指針から踏襲しているその他の事項
4.おわりに

全3回にわたった新基準解説シリーズ【税効果会計】も、今回で最後となりました。
前回まで基本的な考え方、基準の概要、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する会社の分類2及び3について解説いたしました。今回は、分類4及び分類4但し書きを中心にその他従来からの変更点を解説してまいります。


◆(7)<分類4>に係る分類の要件◆

分類4の会社における今までの条件では、税務上の繰越欠損金の存在が重視されすぎていて、<分類1>から<分類3>までに係る分類の要件との間の連続性が失われているという指摘があったために変更されることとなりました。以下の要件をみてください。

【監査委員会報告第66号】
期末において重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社、過去(おおむね3年以内)に重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実があった会社、又は当期末において重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる会社

【変更後基準(第26項)】
次のいずれかの要件を満たし、かつ、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業
 (1) 過去(3 年)又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じている。
 (2) 過去(3 年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある。
 (3) 当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。

変更される基準では、当期末に重要な税務上の繰越欠損金が存在するかどうかではなく、過去(3年)又は当期において重要な税務上の欠損金が生じているかどうかに焦点を当てた要件とすることに変更しています。要すれば、いままでの基準では期末時点におけるストックベースでの判断(重要な税務上の繰越欠損金が“存在”している)をしていましたが、今後はフローベースでの判断(重要な税務上の繰越欠損金が“生じている”)に変わることになります。<分類1>から<分類3>まではフローベースで判断しているのに、<分類4>ではストックベースでの判断では一貫性がないのではないかという上述した指摘に対応するためです。言われてみると、一貫性がないことは明らかですので、この変更も特段違和感はないと思います。

 

◆(8)従来の<分類4但し書き>の変更◆

いままでの基準においては、要件としては<分類4>の企業に該当しそうなケースにおいても、但し書きの例外規定を適用して、実質的に<分類3>の企業と同様に回収可能性を判定していた実務もあるように思えます。これについては、「非経常的な特別の原因」の範囲が明確ではないことに起因するのではないかという指摘があります。つまり、「非経常的な特別の原因」の範囲が明確ではないために、基準が想定していないような事象によっても、実務上は「非経常的な特別の原因」に該当するものとして、<分類4但し書き>が適用されているケースも少なからず存在している可能性に言及しています。そのために、変更される予定の基準では以下のようにしています。

<分類4>に係る分類の要件を満たす企業を<分類2>又は<分類3>とする取扱い

【監査委員会報告第66号】
翌期に課税所得の発生が確実に見込まれる場合、その範囲内で繰延税金資産の回収可能性があると判断できる

【変更後基準(第23項及び第24項)】
翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

上記にかかわらず重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画等を勘案し、

・将来において 5 年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることが合理的に説明できるとき
 → <分類2>に該当するものとして取り扱う。

・将来においておおむね 3 年から 5 年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることが合理的に説明できるとき
 → <分類3>に該当するものとして取り扱う。

上記のように変更される経緯としては、

● 監査委員会報告第66号の例示区分4号但し書きでは「非経常的な特別の原因」の範囲が明確ではなく、実務上、議論となることが多いとの意見が聞かれた。

● 過去又は当期において重要な税務上の欠損金が生じたことにより、<分類4>に係る分類の要件を満たす企業であっても、その原因が臨時的なものであるなど、重要な税務上の欠損金が生じた原因や中長期計画等を勘案して、繰延税金資産の回収が見込まれる場合がある。

● このため、将来の課税所得の十分性が合理的に説明できる場合、状況に応じて<分類2>又は<分類3>に該当するものとする取扱いを設けた。

● なお、<分類4>の要件を満たす企業が<分類2>に該当するものとして取り扱われるケースは、<分類4>の要件を満たす企業が<分類3>に該当するものとして取り扱われるケースに比べて多くはないものと考えられる。

として基準の83項及び84項に記載があります。要すれば、「欠損の原因を分析・把握することで、それを生かして将来を適切に予測する」ことが求められていると言えるでしょう。

また、これらの具体例として、

● 過去において<分類2>に該当していた企業が、当期において災害による損失により重要な税務上の欠損金が生じる見込みであることから<分類4>に係る分類の要件を満たすものの、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積もった場合に、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることが合理的に説明できるとき、<分類2>に該当するものとして取り扱われる。

● 過去において業績の悪化に伴い重要な税務上の欠損金が生じており<分類4>に該当していた企業が、当期に代替的な原材料が開発されたことにより、業績の回復が見込まれ、その状況が将来も継続することが見込まれる場合に、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることが合理的に説明できるとき、<分類3>に該当するものとして取り扱われる。

などが記載されています。

ここで重要なのは、形式的に<分類4>の要件に該当する企業が、<分類2>の企業となる可能性が新たな基準により開けたことにはなりますが、基準の運用上はある程度のハードルがあることを認識しておくことでしょう。本稿においては繰り返しになってしまいますが、基準上で認められていることと実際の実務運用上の取扱いに乖離が生じることは一般に起こり得ることですので、この点においても同様に留意が必要となるでしょう。

 

◆(9)将来の課税所得の見積り◆

まず以下を見てください。

【監査委員会報告第66号】
収益力に基づく課税所得の十分性を根拠に繰延税金資産を計上する場合は、会社によって将来の業績予測が作成されていなければならない。将来の業績予測は、事業計画や経営計画又は予算編成の一部等その呼称は問わないが、原則として、取締役会や常務会等(以下「取締役会等」という。)の承認を得たものであることが必要である。ただし、取締役会等の承認を得たものであっても、会社の現状の収益力等を勘案し、明らかに合理性を欠く業績予測であると認められる場合には、適宜その修正を行った上で課税所得を見積る必要があることに留意する。

【変更後基準(第32項)】
第 26 項、第 28 項、第 29 項及び第 30 項に従って企業を分類する場合、並びに第 20 項、第 23 項、第 24 項及び第 27 項に従って繰延税金資産の計上額を見積る場合、合理的な仮定に基づく業績予測によって、将来の課税所得又は税務上の欠損金を見積ることとなる。具体的には、業績予測の前提となった数値を、経営環境等の企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報(過去における中長期計画の達成状況、予算やその修正資料、業績評価の基礎データ、売上見込み、取締役会資料を含む。)と整合的に修正し、課税所得又は税務上の欠損金を見積る。なお、業績予測は、中長期計画、事業計画又は予算編成の一部等その呼称は問わない。

一読するとわかりますが、取締役会の承認を得ることが、記載からなくなっています。そのため、これからは取締役会の承認は不要なのかとも思えるのですが、実際はそのような想定はしていないようです。いままでは監査上の目安としての基準であったために、監査証拠の一部として採用することができるためという目線も基準には含まれており、そのためには、取締役会の承認が必要であろうという判断から記載があったと考えられますが、改正予定の基準では、会計基準の位置付けとなるために、このような監査証拠としての目線は不要であることから、削除されたと考えられます。単に監査上の目線である基準から、会計基準への位置付けの変化に伴い記載される内容が変化したに過ぎないため、実際の会計実務に当たって、監査人からは引き続き、原則として取締役会の承認を得た事業計画等が求められるであろうことが想定されます。むろん、個々の企業における状況等に応じて、強弱はあるでしょうが、改正によって大きく現行実務が変更となるということはなさそうです。

 

◆(10)従来の実務指針から踏襲しているその他の事項◆

以下の項目については、いままでの基準の内容を基本的には踏襲しています。そのため、これらについては現行の実務をそのまま踏襲することになります。

 ● タックス・プランニングの実現可能性に関する取扱い

 ● 解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異

 ● 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い

 ● 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い

 ● その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い

 ● 退職給付に係る負債に関する一時差異の取扱い

 ● 繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱い

 ● 繰越外国税額控除に係る繰延税金資

 

◆4.おわりに◆
今回の税効果会計の改正は、現行の実務を大きくは変更することはない改正であるとは言われているものの、細かく見て行けば、少なからず変更があることに気付きます。その大半は現行基準で曖昧な箇所を明確にするものであったり、企業の実態を反映できないような実務運用となっている箇所について、実態を正確に反映する道を開くことを可能とするようなものでした。繰り返しになりますが、一般的に繰延税金資産の回収可能性について、現行実務より認められやすくなるといった議論がありますが、決してそうではないということを強調し、本稿の締めくくりとさせて頂きます。

 

関連記事

ページ上部へ戻る